夾竹桃という植物は身近に植栽されているのに、意外に知られていない樹木です。猛毒を有しており、死に至るほどの毒性があります。身近ゆえ誤って毒成分を体内に取り込んでしまう可能性もあります。私の体験を知っていただければ、もしもの時に対処が早く適切に行われる可能性が高くなります。特に小さな子供がいる家庭では注意が必要です。
その仕事から自宅に戻ったのは夕方6時頃だろうか。庭で剪定枝や草を焼却した跡があり、いつもの庭師(賃貸一軒家で大家さんが庭師を派遣してくれてた)が来て仕事をしたんだなと思いながら、家の鍵を開け中に入った。家の中が煙でまだ霞んでいるぐらい焼却の煙が立ち込めていた。
これはひでぇな、洞穴のたぬきが燻されたらこんな気持ちだろう。あちこちの窓を全開にして空気を入れ替える。かなりしつこい煙臭さに閉口しながら1時間ほど換気しただろうか。この日の体調としてはこのあたりまでは普通で、朝から元気だったし、変なものも口にしていない。
ところが突然、吐き気を催しトイレに駆け込む。激しい腹痛・嘔吐、全身から血の気が引いてその場にへたり込んだ。胃の中の吐き出すものが無くなってしまって、一旦はおさまるが、体に力が入らず立ち上がることも出来ず、這って台所まで行き水を飲む。するとまた吐き気に襲われる。ほとんど眠ることもできない夜を過ごし、翌日から少しずつ快方へ向かいました。
この時点ではまだ食中毒だと思っていました。何か細菌・ウィルスに汚染されたものを口にしてしまったのだなと思っていました。症状的には本当に激しい食あたりか食中毒と言っていいような感じです。この日から数週間は胃が痛み、体はだるく体調がひどく悪いまま日々を過ごすことになったのでした。
そういった体調不良からようやく回復してきたかなという頃に身体中が凸凹に膨らんでいることに気が付いたのです。蕁麻疹でした。
痒さを感じて腕、背中、足を掻くと指の跡がそのまま膨らんで皮膚がボコボコになるのです。顔を含め、全身がこの接触性の蕁麻疹になってしまったのでした。それまでこのような症状になったことはなく、あの中毒事件が原因なのだろうと思います。蕁麻疹自体は問題にならないですが、皮膚が敏感になっていて痒さを感じ易く、すぐ触ってしまうので、痒いときも手のひらで撫でるようにさすっていました。この蕁麻疹は完治するまで長期間を要し4、5年かかりました。もうこれは治らないのだろうなとも思っていました。
そんなある時、図書館で調べ物をしている時に、庭にあるあの大きな夾竹桃には毒があること、しかも木全体に猛毒があることを知ったのでありました。
夾竹桃(キョウチクトウ)
この中毒に対する治療はジキタリス中毒と同じということです。専門的なので詳細は省きますが、低カリウム血症を起こすのでカリウムを補給することぐらいしか素人にはできないです。私は言わばひどい腹痛と思っていたので、病院にも行っていないのですが、今思えばかなり危険な状態だったと思います。まだ若くて丈夫でしたね。30代後半の頃でした。
同様の環境下で思い当たる症状が出た時は必ず、救急車を呼ぶべきです。命に関わります!
あの日、庭の剪定をした庭師(庭師といってもプロの造園者ではなく、深い知識もない何でも屋)が剪定した椿など他の枝と一緒に夾竹桃を焼却したのは間違いありません。細長い葉が燃え残っていましたから。判明したのが随分後だったので、何も文句はを言う機会さえありませんでした。
夾竹桃は大気汚染にも耐える強い樹木ということで、街路樹によく植栽されています。濃い緑のスッと長い葉と鮮やかなピンク色の花は美しいコントラストをなして写真の被写体にも良い木です。
注意して見るとあちこちにあります。巨大な製鉄会社の周りなど何ブロックにも渡って植栽されていることもあります。常緑なので葉が落ちていることはあまりないですが、剪定などされた後は危険ですので、特に小さな子供連れの時は拾わないように注意が必要です。
ご安全に!