私が初めて佐藤初女さんを知ったのは『地球交響曲(ガイアシンフォニー) 第二番』という自主上映の映画でした。この映画は地球・自然や人そのものに何かしら独特のアプローチを試みる人物を取り上げたオムニバス形式の映画です。今のところ九作品が制作上映されていますが、監督の龍村仁氏が亡くなられたのでこれで最終作となるのかもしれません。とても好きな映画なので、いづれ紹介してみたいと思いますが、今回は二作目に登場する佐藤初女さんに触れたいと思います。
佐藤初女 1921年生誕 2016年94歳で没 福祉活動、教育、染色家
佐藤初女さんは青森県弘前市の岩木山山麓に「森のイスキア」を主宰しておられました。
「森のイスキア」を端的に表現するのは難しいのですが、心が疲れてしまった人たちがひとときの安らぎを求めてやってくる場とでも言いましょうか。
映画の中で初女さんはそのような心が疲れてしまった人たちのために、おにぎりを作るのです。おかずを作るのです、じっくりゆっくりと。
初女さんは胡麻和えを作るためにすりこぎでゴマを丁寧にゆっくりゆっくりと擦っていきます。ここで初女さんの言葉が続きます。正確なセリフではないのですが、こんな感じです。
「私は面倒臭いという言葉が嫌いです。面倒臭いと言ってしまうと大事なものが逃げていってしまう気がするのです。」
当時、私は30歳ぐらいで、美しいモノを作りたいという一心で仕事に取り組んでいる時期でした。
早く何かを成す、遠回りせず最短で目標に近づきたいという気持ちが先行しがちなそんな時にこの映画を見たのでありました。そしてこの言葉に衝撃を受けました。ああなんて素敵な言葉を発する人なんだろうと。
それ以来、初女さんのその言葉はいつも私の心の中にあります。結局、私自身の仕事は何の芽も出すことなくこの歳まで来てしまいましたが、それでも未だその言葉が心の中で繰り返し響いでいるのです。
初女さんは映画公開当時すでにおばあちゃんでしたが、世の中にはまだまだ本当に雲の上にいる様な高尚な人がいるのだという感激と世の中も捨てたモノじゃないなと安堵したのでした。
「地球交響曲(ガイアシンフォニー)」は現在でも自主上映の形式で上映を続けています。上映回数、上映会場ともにずいぶん減っている感じではありますが、まだ鑑賞する機会はあります。興味を持たれた方はお近くに会場がある時に行かれてはいかがでしょうか。また自分で自主上映を企画するという手段もありますよ。