本能的溺水(水溺)反応

危険は自己負担

ニューズウィーク日本版に本能的水溺反応という初めて耳にする言葉があり、気になってじっくり読んでみると自身の経験からもああそうだなと合点する事であった。

2013年の記事から

人間は溺れかけると、窒息しないように「本能的な水溺反応」と呼ばれる行動を取る。これを最初に提言したフランセスコ・A・ピア博士は、米沿岸警備隊の機関誌オン・シーンで次のように説明している。

1)ごくまれな場合を除き、溺れかけている人は助けを呼ぶことができない。呼吸器官は呼吸を最優先するようにできており、発声は二次的機能にすぎない。従って満足に呼吸ができないなら声は出せない。

2)溺れかけている人は、顔が水の上に出たり沈んだりを繰り返す。顔が水から出ている短い時間は、息を吐き、酸素を吸い込むのに精いっぱいで、声を出す前にまた沈んでしまう。

3)溺れかけている人は手を振って助けを求めることができない。人間は溺れかけると、本能的に両腕を水平に広げて水をかき、体のバランスを取ろうとする。そうすることで顔を水の上に出し、呼吸しようとするからだ。

4)溺れかけている人は自分で腕の動きをコントロールできない。水中でもがいている人がその動きを自分の意思でストップして、手を振ったり救援者のほうに移動したりするのは生理学的に不可能だ。

5)本能的な水溺反応を示している間、その人の体は水中で垂直の姿勢のままで、足は効果的なキックができない。このため溺れ始めてから20秒〜1分で体は水中に沈み始める。

Newsweek日本語版https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2013/07/post-3006.php

 日頃、PFD(Personal Floating Device)つまりライフジャケット着用でリバーカヤックで遊んでいる私もホワイトウォーターでもみくちゃにされると半ば溺れたような状態で下流に流される。この時は、顔を天に向けて体を浮かせることで呼吸が確保できて楽になるのに、実際には頭からその意識は飛んでしまう。顔が少し出たところで必死に息をしてまた沈むことを繰り返し、少し流れが穏やかになったところでようやく正気を取り戻す。もちろん助けて!とは言えない。この場合、まだ多少なりと余裕があることと格好悪いから助けを呼ばない部分も多いのですが、声はなかなか出せないですね。
 PFDは少なくとも7kgぐらいの浮力があるものなのですが、ホワイトウォーターではその細かい泡のせいで浮力が低下してPFDを着用していても体が浮かばないのです。上手に流されるという技術はなかなか難しいものです。これも練習が必要です。

 子供の頃、家族で海水浴にいった時、私の数メートル後ろで弟が浮き輪でひっくり返って足が天に向かってバタバタしている状態で助けたことがある。近くに親も他人も沢山いたのに誰も気づいていなかった。本当に静かに溺れていた。気付くのがもう少し遅れていたら弟は死んでいたと思う。何十年も前のことなのにその時の様子がスローモーション映像で頭の中で繰り返される。それぐらい印象が強い場面でした。本当に静かに溺れます。

最近は本当に水難事故のニュースが多くて残念です。子供だけでなく大人も溺れています。PFDを着用してさえいれば助かった命も多いのではないでしょうか。PFDの価格は比較的安いです。上級者(救助者)や競技用は数万円するものもありますが、4000〜7000円程度でちゃんとしたものが買えます。

 溺れて沈んでしまって呼吸していない状態、つまり脳へ酸素が供給されなくなった状態では5分が分岐点と言われています。これを過ぎると一命を取り留めても脳に障害が残る可能性が高くなります。たった5分です。しかし、親の近くで子供が溺れた場合は、助けられる可能性が高い。だからこそ一瞬たりとも水辺の子供から目を離しちゃいけない。

 でも遊んでいる大人の私をたった5分で誰かが見つけ出し、助け上げてくれるとはとても思えません。誰も見守ってくれはしないから、我々大人は自分で自分の身を守るために、泳ぎの自信のある大人でも少なくともPFDは着用しましょう。そして、遠く流されてもいいから呼吸が確保できる背浮きを練習しておきましょうね。