「ザリガニの鳴くところ」ディーリア・オーエンズ著

  • 2023-03-28

ノースカロライナ州の湿地帯での物語。

自然の描写がとにかく素晴らしい。湿地の動植物の生態について非常に詳しく詩情的に表現される。

それもそのはず著者は生物学者でもあるのだから。彼女の処女小説が話題の作品となったようです。しかも上梓は70歳ということです。ブラボー!


内容は湿地の少女と蔑まされる1人の女性の生涯の物語。完全なフィクションで誰かモデルとなる人物がいたわけでもなさそうですが、事実に基づいているかのように錯覚するほどよく馴染むストーリーでありました。

ノースカロライナ州

湿地帯のイメージを膨らませたくて物語を読み進めながら地理を調べました。ノースカロライナ州に湿地?と思ったのです。イメージとしては若干内陸側かなと思っていたのです。

グーグルアースでチェックすると地理的な設定は難しいな。物語では入り組んだ湿地帯を迷って海に出てしまうというシーンがあるけど、この州で海に比較的近くて大きな湿地帯という地域は見つけられませんでした。

勝手な想像でミシシッピのバイユーみたいなイメージだけど実際はどんなだろう。

そしてグーグルアースを見ていて気がついたのだけどノースカロライナにはレイチェルカーソン保護区というエリアがあるのです。レイチェルカーソンといえば1960年代に「沈黙の春」で化学物質が環境に及ぼす影響に鋭く警鐘を鳴らしたあの生物学者ですね。

レイチェルカーソンは合衆国のもっと北の方、ペンシルベニア出身だそうですので、どういう繋がりで中南部のノースカロライナにその名前を冠した保護区があるのか興味あるところです。

物語は少女カイヤの被差別的・被虐待的人生と平行して起こる殺人事件、そしてこれらに対比した美しい湿地の描写が織り込まれるミステリーものです。

近頃、虐待やら人種差別などの事件が多くて嫌ですね。昔からあったのだろうけど表面化しているのはほんのわずか。カイヤの人生に胸が痛みます。

映画化もされている作品ですが、やはり似て非なるものとなっています。どちらかと言うと、本を読んだ後に映画鑑賞の方がいいかなと思います。
タイトルからして不思議な良い本を読んだと思う。ぜひ一読を。