中島敦名作集

15時間28分

ナレーター:野原圭

文章の格調高さでこの人に並ぶ人は他にいるのかと思う。わずか33歳で没するまで20作品ほどを残しだだけという。この若さでこの文体の完成度。すごいとしか言いようがない。しかし、中島本人は自分には才能がないと嘆いていたのだから現代の巷に溢れる作家諸君は顔上げて通りを歩けるのかい?と聞いてみたい。

audibleならではの特徴として読み手(ナレーター)が存在することも極めて重要である。その点でこの野原圭さんはとても良かったですね。落ち着いた声質と抑揚は中島敦の作品に非常によく噛み合っていたと感じた。


<収録作品>
斗南先生
虎狩
狐憑
木乃伊
弟子
文字禍
山月記
光と風と夢
牛人
盈虚
悟浄出世
悟浄歎異
名人伝
李陵

と盛りだくさんです。

個々の作品については触れません。山月記などあまりに有名な作品も含まれていて再度聞き直してもやはり良い作品は良いとなってしまいます。

今回はその中の「弟子」という作品に興味を惹かれました。これは読んだことがなかったですね。孔子には孔門十哲とか十二哲とかあるいは二十四哲などという選び抜かれた弟子があります。その中で政治の分野で活躍した子路という弟子について書かれています。孔子のただならぬ存在感に敬服するとともにまたズケズケと問いを発して問答になるあたりなかなか良いです。

さて孔子とはいかなる人物だったのだろうか、孔子とは何故そこに存在したのか、孔子とは本当に地球人!?とまで思ってしまいます。というのもバルカン人のMr.スポックが感情を完全に制御し、論理的思考を常とする姿に重なってしまうからです。孔子はどのような状況に置かれても常に道を説き、正しいことは何かを冷静に指し示します。孔子、釈迦キリストソクラテスは四聖人とされるそうです。お隣の国にはかつて、あまりに大きな人物が存在したことに憧憬の念を禁じ得ません。

もうひとつ、文字禍というのも知らなかった作品ですが、これは風刺と皮肉が込められた作品と見ればいいのでしょうか。コロナ禍もありましたが、文字禍は誰もが心には少しは思ったりしたことがあるのではないかなと思います。それを中島敦が書くとこうも格調高くなるのが興味深い。村上春樹が書いたら全く違う感じになっちゃうのだろう。多分に性的描写が詳しすぎるんじゃない!?という作品になるはずだ。

気持ちの良い格調高い文体に触れたくなったら、中島敦で間違いないです。本当にいいわぁ。

ナレーターの語り口も良いし、星をたくさんあげようと思います。

★★★★★

>耳で読書を

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